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最高裁判所第三小法廷 昭和56年(オ)117号 判決

上告人

菊地茂

右訴訟代理人

深井昭二

被上告人

山内博

右訴訟代理人

金野繁

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人深井昭二の上告理由について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係のもとにおいて、判旨上告人が被上告人のみにつき昭和四四年度及び昭和四五年度の水揚高を除外して補償金を算定したことは不当な職務執行にあたり、上告人は水産業協同組合法三五条の二第三項の規定による損害賠償の義務を免れないものとした原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原判決を正解しないでその不当をいうものであつて、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(環昌一 横井大三 伊藤正己 寺田治郎)

上告代理人深井昭二の上告理由

一 法令違背

(1) 原判決は、上告人の被上告人に対する補償金配分算定は不当で右不当な職務執行について上告人に重大な過失があつたとして被上告人の請求を認容した。

併し、右判断は水産業協同組合法に定める漁業協同組合の目的を見誤つた結果と考えざるをえない。

(2) 改めて述べるまでもなく、漁業協同組合は零細漁民がその協同組織の力によつて、資本主義の弊害から自らを護るべくして設立されるもので、法の目的とするところも又そこにある。

(3) ところで、上告人の属する能代市漁業協同組合(以下能代漁協組という)は共同漁業権第四号を有するものであるが、右海域における各漁民の行使する漁業を営む権利は、漁業法の定めるところの規制のほか、まずもつて右水産業協同組合法第一条の目的にそうものでなければならない。

即ち、漁業協同組合組織の発展がそれである。

(4) 本件は上告人による右共同漁業権対象海域の一部消滅に伴う補償金の配分職務が問題とされているのであるが、右職務執行に当つての基本的考え方ないし立場は右(2)(3)に述べたところと別異に解することは許されないと考える。

即ち、上告人は右(2)(3)に述べた漁業協同組合設立の精神ないしは法の目的にそうべく、数学的正確さより、具体的妥当性を正義と考えて配分職務を執行したからである。

(5) 上告人は補償配分職務の執行につき右の基本姿勢をもつて臨んだものであるが、事務の具体的執行は概ね原判決一、(1)、イロに述べられている事実に基づいてこれをなしたものであるからこれを援用する(但しイ・(ト)の末尾三行「その垣網の……制約されている」は明白な事実誤認故除く)。

従つて上告人が、被上告人に対する具体的配分額を算定するについて、その水揚高はあくまでひとつの基準にすぎず特別の事情を考慮したものであるが、その特別事情とは冒頭述べた能代漁協組組識の発展強化方策にあつた。

即ち、以下に述べる理由が右事情の基礎をなすものであるが、そのこと故に、もし被上告人の水揚高を単純にそのまま配分額の基礎とすれば逆に大方の組合員の非難を招き、爾後の組合運営が非常に困難となることが確実に予測されたからである。

(6) 上告人を右判断に到らしめた理由は次のとおりである。

イ 被上告人は遊戯場経営が本業で漁業は副業にすぎない(第一回原告本人尋問調書表低)。

ロ それにも不拘、組合経由の各水揚高を見た限りでも被上告人のそれは二位の者の三倍以上はあり、三位以下の群小漁民の水揚高とは到底比較にならない程の多額の金額となる

ハ 従つて機械的に配分額を算出する限り、漁業を本業とする群小漁民に対する配分額は名目程度のものとならざるをえない場合も出てくる。

ニ 併し、漁業を本業とするものは概ね親代々からの漁民であるから(被上告人のそれは本件発展時までに一五年)、能代市漁協組に対する貢献度も高くこれに依存する度合いも又高いのみならず、生活の上から本件消滅海域に対する依存度合は到底過去三年間の水揚高の多寡をもつては率し切れない程強いものがある。

(7) そこで上告人は、原判決判旨一、(一)、(1)、ハ、(ロ)に指摘する考え方の合理性に着目したわけである。即ち、被上告人の固定操業場所が過去三年を通じいずれも本件消滅海域外であること、而もその漁法は回遊魚を待つて捕捉するものであるから本件海域の消滅によつてその水揚に、明白でないまでも殆んど影響がない、ということである。

そうであるから上告人は被上告人に対し、被上告人の操業場所が消滅海域外であることから補償対象外となること、及びそれにも不拘、全体の補償額を増やす目的からその四四年度の水揚高のみを借用することと告げ、かつ被上告人の四五年度分の水揚を除いた四四年、四六年度の水揚高をもつて秋田県に要求書を提出しているのである(尚、四六年分は貢献度を考慮したものである)。

(8) ところが、原審は被上告人の操業場所につき上告人の主張を容れるところとならなかつたのでその点は一応措く。併しそのことによつて上告人の漁業協同組合設立目的にそうべくして執行した補償金配分理念は聊かも損われるところがない筈で、要は被上告人の操業場所が消滅海域の内であつたか否かの事実判断に誤りがあつたとせばそれが重大な過失につながるといえるか否かに帰すると考える。

(9) ところで原判決は、右判旨に引き続く一、(一)、(1)、ハ、(ハ)において、その末尾に六行を加え、上告人の判断の非なるゆえんを補強しているが、右六行の判旨は経験則を無視した事実認識に立脚するもので容認できない。

それは、原判旨による、「底建網の設置場所の半経約一キロメートルの範囲内での他の操業が禁止される」との認定である。

なるほど〈証拠〉によると、その「期限または条件」のひとつに「定置網の周囲から一、〇〇〇メートルの以内の区域で操業してはならない」との文言がある。

併し、この条件は名宛人との関係、およびさし網と建網とでは漁法が異なるところから、被上告人が秋田県の許可するさし網を操業する場合、定置網(これは大謀網のこと)の一、〇〇〇メートル以内での操業を禁止したものと続むべきもので本件と無関係であるが、これによつても定置網付近の漁業が一般的に禁止されていることを意味するものでないこと当然である。

(10) 右補強的判示は、後にも述べる如く、経験則無視・審理不尽にもつながるものである。

従つてこれを付加しても尚、上告人の考慮した能代漁協組の発展強化の理念に鑑みる時、上告人による被上告人に対する配分額算定は必ずしも不当といえないからそのこと故に重過失ありとすることは無理といわなければならない。

二 経験則違背ないしは審理不尽

(1) 本件は、被上告人の操業場所が消滅海域の内であつたか外であつたかが重大な極め手とされている。

そして右を判断するうえでの証拠は人証のみで客観的資料は全く存在しない。

併し見逃すことのできない事実がある。

それは、海での操業場所は毎日の如くに付近で操業している他の当該漁業組合員でなければ判らず、又当該組合員のみがよくこれを承知している、ということである。

ところで、被上告人は役員会ならびに臨時組合総会においては上告人による、「操業場所は消滅海域外」との判定に一言半句も自説を述べていない。

つまり、上告人は誰もが知つている明白な事実の前には沈黙せざるをえなかつたのである。

(2) 原審は上告人が被上告人の異議に基づき招集した、役員会、組合総会における上告人の措置を是とする決議についてはなんら言及するところがない。

併し、右会議の決議には二つの重要な問題点があると思われる。ひとつは仮に上告人の措置に非難さるべき点が含まれていたとしても、結局民主的手続を経て容認されたということ。今ひとつは右決議にいたる過程で海を最も知つている組合員の消滅海域内で被上告人が操業していたか否かが議論されていることである。海は陸上と異なり、特殊な機械装置による記録を除いては殆んど客観的標識を欠く。従つて海の専門家の集りである総会の議論にはそれなりの合理性があつて非専門家である裁判所としても十分これに耳を傾けるところがなければならないのである。

特に右に述べた如く被上告人はその操業場所について、いずれの会議においても、それが消滅海域内であつたことを主張していない。その理由と思われるところは先に述べたが、海の素人である裁判所は矢張りこの点を無視できないのではあるまいか。水深がどうの、身網の高さと水深の関係はどうのと論議しても、消滅海域の内か外かを判定するには殆んど無益の議論に近いからである。してみれば各会議の決議のよつてきたるゆえんに思いを到さずしてなされた原審の判示するところは、この意味で経験則を無視したか審理を尽さなかつたかの違法があると考える。

三 以上述べたところから、法が組合組織の発展を目的としている以上、その組織に亀裂を生じしめる危険を冒してまで水揚高に応じた配分方法によることを要求することはできない筈であるから、水揚高を一応の基準とし、その限度を「組合組織の発展強化を妨げない」点に求めて具体的配分額を算定した上告人の職務執行は、細部に亘つて欠陥はあるにしてもそれが重過失と断定されるまで不当であつたとすることはできないと思われる。

よつて、上告におよんだものである。

〈参考・第二審判決抄〉

(仙台高裁秋田支部昭五三(ネ)第一二三号、昭55.12.3判決)

(一) (水揚高について)

(1) 被控訴人の水揚高が昭和四四年度金二六七万七、九三一円、昭和四五年度金二五一万九、五四四円、昭和四六年度金四七三万〇、一二二円であつたこと、控訴人が配分案作成にあたり被控訴人の昭和四四、四五年の両年度の水揚高を補償の対象から除外したことは、当事者間に争いがないので、控訴人のした右除外措置の当否について、まず検討する。

イ 〈証拠〉並びに原審(第一、二回)及び当審における被控訴人本人、原審(第一ないし第三回)及び当審における控訴人本人(後記措信しない部分を除く。)の各尋問結果によれば、次の各事実が認められ、原審(第一ないし第三回)及び当審における控訴人本人尋問の結果中、右認定に反する部分は、前示の各証拠に照らし、直ちに措信できず、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

(イ) 控訴人が配分案作成にあたり、現実に水揚があるのに補償対象から除外したのは、被控訴人の昭和四四年度分、昭和四五年度分のみであり、他の組合員の水揚については、その水揚が本件消滅海域内での操業によるか否か、さらに共四号の対象海域内での操業によるか否かを問うところなく、また内水面での水揚や、違法な漁法である開口板操業による水揚をも除外することなく、すべてを補償対象としている。

(ロ) 組合員各自の水揚について、魚種や漁法により、本件消滅海域内での操業によるものがどの程度であるかを判断することは不可能とはいえず、また、魚種によつては明らかに共四号の対象海域外での操業によるものと断定できるものもあるが、一般的には、その水揚のうち、どの部分が本件消滅海域内でのものか、あるいは共四号対象海域内でのものかを判定することは殆んど不可能である。

(ハ) 秋田県は本件補償額算定にあたり「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱(昭和三七年六月二九日閣議決定)」に従い、収益資本還元法によつてこれを算出しているが、それによれば、消滅する権利(共四号の一部)の行使により得られる収益については、組合員の昭和四四年ないし昭和四六年の各年度の総水揚高の平均額を基準にとつて算定しており、組合員の水揚高の一部をこれから除外するような措置はしていない。

(ニ) 控訴人が組合長として本件補償交渉にあたつた際に秋田県に提出した要望書においても、その補償対象となる被害額算出にあたり、被控訴人の昭和四四年度の水揚高の全額が計上されている。

(ホ) 共四号の共同漁業権者であつた浅内漁協は、その組合員が本件消滅海域内で操業する割合は低かつたが、昭和四七年一二月二五日ころと昭和四八年四月二七日ころとの二回にわたり、秋田県から補償金合計金六〇〇万円の支払をうけており、右補償金のうち少なくとも金三〇〇万円は、本件消滅海域での港湾建設事業により共四号の対象海域での漁獲が減少することによる損失補償として支払われている。

(ヘ) また、本件補償についても、秋田県は、組合に対し本件消滅海域外であることの明らかな内水面分としての補償金一、二〇〇万円を含めて、これを支払つている。

(ト) 被控訴人の水揚のすべては、底建網での操業によるものであり、被控訴人は昭和四四年には二ケ統、昭和四五年には三ケ統を建込んでいるが、そのうち、最小規模のものは一二建のもの(身網の最も高いところが一八メートルのもの)であつて(右最小規模の点は当事者間に争いがない。)、その建込んだ位置(設置場所)は各年度ごとに同一場所か、せいぜい一回移動するだけで、いずれも共四号の対象海域内であつた。なお、底建網は身網(魚を直接補獲する部分)とその身網の中央部から直角に伸びる垣網(回遊する魚を身網に誘導する部分)とからなるT字形の網で、垣網が海岸に垂直に向つて伸びるように設置されるが、その垣網の長さは四五〇メートルないし五〇〇メートルに達し、また、その設置場所の周囲半径一〇〇〇メートル内では、他の操業は制約をされている。

(チ) 本件消滅海域は、それが消滅すれば、そこでの操業ができなくなり、また、そこに港湾施設が作られることもあつて、それ以外に共四号対象海域や内水面での操業にも影響が出ることは、当時、関係者間では容易にこれを予測できたことであつて、現に被控訴人も、昭和四八年には共四号の北側に位置する共同漁業権第三号の対象海域で入漁料を支払つたうえ底建網漁を操業している。

ロ 右イで認定した各事実に基づき考えるに、元来、本件消滅海域内での水揚か否かの判定は殆んど不可能であり、また、右海域消滅による漁獲への影響は、他の共四号海域での操業にも及ぶのであつて、さればこそ、秋田県は本件補償にあたり、これらの点を考慮してその額の算定を行つているのであり、また、控訴人も配分案作成にあたり、現に被控訴人以外の組合員については全水場高を補償の対象にしていて、これらの点を考慮すべきものと判断していたと推認されるから、控訴人は、被控訴人の昭和四四、四五両年度の水揚高が共四号の対象海域内での操業によるものである以上は、他の組合員の水揚高と被控訴人の水揚高とを別異に取扱うことを相当とする特別な事情がないかぎりは、これを補償対象から除外することはできないものといわなければならない。

ハ そこで、次に、控訴人が被控訴人と他の組合員の水揚高を別異に取扱うことについて、右のような特別な事情があるか否かについて検討する。

(イ) 控訴人は、秋田県も本件消滅海域に依存しない浅内漁協に対する補償では、水揚の損失補償をしない方針をとつていたので、これにならつて、右両年度にもつぱら浅内地域の沖で操業した被控訴人の水揚高は、これを補償対象としなかつたと主張するが、県の浅内漁協に対する補償の問題と、組合にすでに与えられた補償金をその組合員に配分する問題とは自ら別個の問題であつて、これを同一視することにはそもそも疑問があるばかりでなく、前記認定のとおり、浅内漁協に対する補償にも水揚に対する損失補償の趣旨は含まれていたのであり、また、両年度の被控訴人の操業場所がもつぱら浅内地域の沖であつたと認めるに足りる証拠はないから、この主張は採用できない。

(ロ) ただ、右1イ(ト)で認定したとおり、他の漁法と異なり、底建網での操業は網の設置場所が長期間固定されるのであるから、その設置場所によつては、そこでの操業による水揚に対しては、本件消滅海域の消滅による影響が及ばないことが明らかであると判定できる場合があることも考えられ、そして、そうした判定ができる場合であれば、控訴人が被控訴人を除く他の組合員に対して行つたような全水揚高を一応は補償対象としたうえ依存度でその調整をはかるという方法にはよらずに、その消滅による影響をうけないことが明らかな水揚高を補償対象から除外するという方法も、いちがいに合理性がないとはいえない。

(ハ) そこで、被控訴人の両年度の水揚がその操業場所からみて、本件消滅海域消滅による影響を受けないものであることが明らかであるか否かを、さらに検討する。

原審(第二回)及び当審において、控訴人本人は、被控訴人の操業場所は、昭和四四年度は二ケ統とも本件消滅海域から南に二キロメートル位離れていたし、昭和四五年度は二ないし三ケ統とも本件消滅海域から1ないし1.5キロメートル離れていた旨供述する。また、前記認定のとおり、被控訴人の設置した底建網は最小規模でも一二建のもので、身網の高さは一八メートルあり、当審証人佐藤彦治郎の証言によれば、底建網はこれを網の規模に比べてあまり浅すぎるところに設置すると、時化の時などに身網の上部が破損する可能性が多いことが認められ、さらに、本件消滅海域の最深部はその西境付近であり、その水深は約一三メートルであることは当事者間に争いがない。そして、当審証人佐藤彦治郎は、被控訴人は両年度とも、底建網を各身網の最高の高さとほぼ等しい水深の場所に設置したと証言する。

しかし、右控訴人の供述及び佐藤の証言は、これに反する原審(第一、二回)及び当審における被控訴人本人尋問の結果や当審証人菊地誠二の証言に照らし、直ちに措信できないし、また、前記認定の被控訴人が設置した底建網の身網の高さは、いずれも本件消滅海域の最深部の水深を五メートル以上こえるので、これをこのような浅い場所に設置すると、身網の上部が破損するおそれがあるとの点についても、原審(第二回)及び当審における被控訴人本人尋問の結果、当審証人菊地誠二の証言によれば、底建網が海中に設置された場合には、網が潮の流れによつてたるむため、身網の高さと同一の水深に身網を設置したのでは、海面下数メートルの位置に身網の天井がくることになり、表層から中層を回遊する魚種はその殆んどが漁獲できなくなることが認められ、右認定に反する証拠はないから、被控訴人の底建網の設置場所が本件消滅海域外であつた事実を推認するに足りるものとはいえない。そして、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。ましてや、前記認定のとおり、底建網は垣網の長さが四五〇ないし五〇〇メートルにも及び、また、その設置場所の半径約一キロメートルの範囲内での他の操業が禁止されるところからすれば、その範囲内は操業区域であるともみられるのであるから、仮に身網の位置が本件消滅海域外にあつたとしても、その操業による水揚が右海域の消滅によつて影響をうけないものであることが明らかであるとは到底いえない。

(ニ) そうだとすると、控訴人が、被控訴人の昭和四四、四五年度の水揚高について、他の組合員の水揚高とその取扱いを異にしたことを相当とするような特別の事情はなかつたものというべきであり、控訴人が被控訴人の右両年度の水揚高を除外して補償金を算定したことは不当な職務執行であつたといわざるをえない(なお、原審(第三回)における控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人の水揚高が他の組合員の水揚高に比べて大きいため、その水揚高をそのまま補償対象とすると、その補償額が莫大となり、他の組合員への配分が少なくなることも、控訴人が被控訴人の補償金を算定するに際し昭和四四、四五年度の水揚高を除外した理由の一つとして考慮されたことがうかがえるが、しかし、そもそも水揚高を一つの基準として補償の配分をすることにした以上、何らかの合理的理由に基づいて、配分額の最高限度額を定めて配分するのは格別として、単に一組合員への配分額を減らすことを目的に、本来補償の対象となるべき水揚高の一部を、その対象から除外するようなことが、許されるとは到底考える余地はない。)。

(2) そこで、さらに控訴人の右不当な職務執行について、控訴人に悪意又は重大な過失があつたかどうかについて検討するに、前記認定のとおり、控訴人は、被控訴人に昭和四四、四五年度の水揚高があることを知りながら、他の組合員についてはすべての水揚高を補償対象としたのに、被控訴人についてはあえてこれと取扱を異にしてその水揚高を補償対象から除外し、しかも、これについて、その別異な取扱を相当とする特別な事情はなかつたのであるから、仮に控訴人がこうした取扱が正当なものと信じてこれを行つたものとしても、前記認定の諸事情に照らせば、控訴人には重大な過失があつたものといわなければならない。

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